意思決定プロセスの何が良くないのか

会社の運営ってのは基本、トップダウンのフローです。少なくとも民主的な意思決定は一般的ではない。「みんなの意見は案外正しい」みたいなことがビジネス書などでよく説明されているのだけど、意思決定の仕組みはちっとも変わりませんね。(変わらないのはウチの会社だけ?)


なーんでか?と考えるとき、上に立つ年寄りが若手を起用しないとか、みんなの意見をまとめる仕組みがないとかいった理由付けがぱっと思いつきますが、これらは部分事例の拡張に過ぎない感があります。これらを課題提起して解決するのもいいのですが、問題設定の仮説が正しくないとせっかくの解決策も無駄になってしまう。もうちょっと色々な仮説を持ちたいなと思うわけです。


ここで会社の運営といっているのは、要は状況々々に応じて正しい意思決定をして効率的な事業成長を実現したいといういうことです。そして、意思決定と事業成長が関係は「資本」と「労働力」と「生産性」をどうするかということに収束します。この3つは成長の源泉とされていて、事業にとってとても重要です。単語だと定義が発散しそうですが、僕なりの解りやすい言い方として、資本は金、労働力はヒトと技術、生産性は働く人のモチベーションや生産インフラ(知識含む)としておきます。「資本」「労働力」「生産性」の3つを上手くコントロールすることで事業は最も効率的に成長するはず。これを違うという人はいないでしょ。


そう、この3つを上手くコントロールできれば会社は上手く行くはずなんです。しかし現実はテレビゲームではないので、そう簡単にこの3つをコントールすることは出来ない。これが問題の根本です。何故出来ないかは、社風だとか既得権益だとか人材流動性だとかまあ他にもぐちゃらぐちゃらと色々ありますが、要は社会のプラットフォーム的なところが関わっています。もしもプラットフォームを変えるようなことができて、例えば「労働力」のコントロールが経営者の自由自在になり、雇用契約結び放題、解約し放題みたいなことをやれたら、今考えているような問題も意味合いが変わってくる。


しかしプラットフォームはそう簡単には変わらないので、ここでは現状のはなしで考えたいと思います。現状というのは、年功序列、終身雇用というのが法的にも社会的にも当然と考えられているような状態。つまり、会社は今いる人間をうまく使うしかないということです。もちろん大幅な所得減も出来ませんし、新卒採用ゼロなんてことも軽々しくは出来ません。経営が傾いてどうしようもなくなるまで社員を大事にし社会的責任を果たす(ふりをする)のが日本の会社です。JALのごとく。


自分の会社のメインの事業が衰退期に入っていて、10年後今のグループ社員全員を食わせていくことなんて絶対無理だ、と経営層のみならず社員の大半が気づいている状況だとしましょう。利益が、余剰資産があるうちはリストラ出来ないというなら、新しい収益の柱をいまのうちからやらなきゃだめだというのは、みんな理解しています。新しいことをやるという「みんなの意見」はやっぱり正しいでしょう。でもうちの会社は新しいことを中々始めようとしない。ちょっとばかりの投資はするけど芽がでない。なんでかなー、経営者が無能だしトップダウンの意思決定の仕組みが悪いんじゃあとなるかもしれませんね。


トップダウンの意思決定とはどういうことなんでしょうか。そのメリットは強制力とスピードの速さです。将来の成長分野が明らかになった場合(その逆もしかり)、速やかに組織変更を行い、予算を組み替えることができるわけです。資本は比較的簡単に動かせるハズですが、ヒトと技術は少し時間がかかるでしょうか。さらにトップの決定を末端まで理解させてやる気をださせるまでいくには、もっと時間がかかるでしょうかね。いいところ悪いところは勿論ありますが、「資本>労働力>生産性」の順で効率性を重視した意思決定スタイルだと言えそうです。


実現している会社はあまりないでしょうが、みんなの意見で意思決定する会社はどうでしょう。みんなで決めたことであれば、社員の納得性は高いでしょうし、現場の意見が十分反映されているとすれば部分最適の積み上げとはいえ、生産性は高くなりそうです。一方、お金はやることが決まってその後からついてくるような決め方になりそうです。一見全うにも思えますがどうでしょうね。ともかく「生産性>労働力>資本」の順で効率性を重視した意思決定スタイルなのではないでしょうか。


こうして考えていくと、結局は、資本と労働力と生産性、何処から動かすのが全体最適なのかというところが、意思決定プロセスの良し悪しを判断することになるのだと思うわけです。ここで少し製造業のことを考えてみます。日本がモノづくりに強いといわれているのは、生産性のとくに生産インフラの部分で相当な蓄積があるからで(過去数十年トップランナーだったわけですから)日本のモノづくりに対して身内として悲観的な僕ですが、生産インフラは間違いなく強みだと思っていて、今日本で何か新しいモノを作ろうとしたら内作、外注、部品調達から手段はいくらでもという感じです。とすれば、生産性の部分はレベルが高いのだからあとは資本と労働力を上手くやりくりすればかなりいい感じではないか、であればトップダウンの意思決定がいいのではないか、という考えに至るような気がします。


まあそれでいいのだろうと僕も思うんですけどね。そして実は本当の問題はもっと低レベルなところにあるのだろうと思ってしまうんです。金のやりくりもしないトップが意思決定権だけ抱え込んだり、生産性なんてお構いなしに自分の居場所を守るためだけに現場の意見を主張する人たちだったり。ああ、意思決定のやり方の問題ではないのかもなあと。こういうのって、事業仕分けの話や派遣村の話にちょっと似てると思いません?